ソーラー・デカスロン中東大会を視察しました

ソーラー・デカスロンは、世界の大学が次世代の省エネルギー住宅を設計し、実際に建設してその性能やデザイン性など10種目を競う国際大会です。

アメリカのエネルギー省が2002年にはじめました。

Solar Decathlon

 

これまでアメリカ、ヨーロッパ、中国、南米などで開催されています。

なんといってもその特徴は、学生が設計だけでなく、建設、プレゼンまでやること!

エネルギーの収支が実質ゼロになるポジティブ・エネルギー住宅の考案だけでも学生にとっては貴重な経験ですが、その建設までおこない、英語で審査員や来訪者にプレゼンまでやるのですから、とても難易度が高い大会です。

それでも最近ではほぼ毎年実施され、大会ごとに10〜20チームが参加します。参加そのものにもプロポーザルによる選考がありますので、出場することが一つの”勝利”でもあります。

そんなソーラー・デカスロンに日本の大学として唯一参加した経験があるのが千葉大学チームです。ミライノラボ代表の田島翔太が学生リーダーを務めて、2012年スペイン、2014年フランスの大会に出場しました。

2012年スペイン大会で千葉大学チームが披露したOmotenashi House(おもてなしハウス)

 

2014年フランス大会で千葉大学が披露したRenai House(ルネ・ハウス)

 

さて、そんなソーラー・デカスロンですが、2018年に初めての中東大会(Solar Decathlon Middle East 2018)がUAE、アラブ首長国連邦のドバイで開催されました。

Solar Decathlon Middle East

 

中東と言うと石油のイメージがありますが、中東諸国は早い段階から再生可能エネルギーへの転換を図っています。石油がいつまでも採掘できるわけではありませんし、様々な世界情勢の影響を受けます。実際に、今回開催されたドバイというところは実は石油埋蔵量も僅かで、早くから経済・金融を中心産業として発展した歴史があります。

 

とは言え、再生可能エネルギーに限らず、自国での技術やイノベーションに乏しいのも中東諸国の特徴の一つ。エネルギーの自給自足というテーマに対して、世界各国の技術とアイデアが集まるソーラー・デカスロンがここドバイで開催された、というのも納得がいきます。

 

さて、このたび大林財団様から助成を受け、中東で初めてとなるソーラー・デカスロン中東大会(SDME2018)に視察に行きました。おそらく日本人としてSDME2018を見に行ったのは私だけだったのではないでしょうか・・・。

公益財団法人大林財団
採択者一覧(〜2017年度)
 

ドバイの町から車で約1時間。冬のシーズンに入る前とは言え40度近い砂漠のど真ん中をひた走ります。

途中には多くの労働者(聞くところによるとパキンスタンなどから出稼ぎに来ている方が多いとのこと)が工事をしていました。ときには水を求めて立ちすくむ人たちもいて、なんとも言い難い気持ちになりました。

 

急に現れたのが、会場となるMohammed Bin Rashid Al Maktoum Solar Parkです。砂漠のど真ん中にソーラー村が建設されています。会場の隣は巨大なソーラー発電所です。

 

入場します。残念ながら訪れた日は人はまばらでした。お陰でゆっくりと各住宅を見学できました。

 

会場内には各国チームが建てたソーラー住宅が並びます。敷地が広いのでゆったりとつくられています。

 

では参考までに、1つのチームを覗いてみましょう。

こちらはUAE、パレスチナ、フランスの3カ国合同のTeam BaityKoolです。

特徴的な外観はプレファブリックコンクリートに穴が空いています。

この手法は今回のSDME2018でよく見られました。強い太陽光の日差しを遮って熱をできるだけ受けないようにする、建物の外側のレイヤーです。つまり、建物本体とそれを守る二重のレイヤーになっています。

 

ソーラー・デカスロンでは基本的に毎日、ツアー時間が設けられており、ツアー中は見学者を案内しなくてはなりません。それも審査の一環です。流石にどのチームも大変丁寧に説明をしてくれました。Team BaityKoolはパキスタン人の学生が案内してくれました。

 

室内の構成は様々ですが、できるだけ少ないエネルギー消費量で快適な空間をつくるには、必然的に狭い(容量の小さい)空間となります。そのため、このチームのように開放的なテラスなどを設けて、建物の内外を繋げて出来るだけ広い空間をつくります。

開口部はもっとも熱が逃げやすい(入りやすい)弱点になるので、トリプルガラス、場合によっては真空ガラスを用いて熱貫流率を下げます。木製サッシは高価ですが、環境にも優しく熱貫流率に優れ、大開口をつくることが出来るので多くのチームが採用しています。

外はよく見えませんが、エネルギー効率の良い住宅をつくるための工夫です。

 

ほとんどのチームがHEMS (Home Energy Management System)を導入しています。鍵の開閉、照明や空調の制御などをします。エネルギー消費や発電量の見える化もHEMSの重要な役割です。

 

写真ではわかりづらいですが、このチームの住宅は一部の壁が細かい穴の空いた布で出来ています。ソーラー・デカスロンでは1週間から10日で住宅を完成させるという厳しい審査があります。仕上げにかかる時間を削減するため、このような素材を採用したようです。

また、壁面内に空気を流す層があり、細かい穴から輻射のように空調が吹き出してくるようです。ヨーロッパでは空調の風が直接身体に当たるのは不快と考えられているので、その対策にもなるのでしょう。

 

そのほかにも、設備の工夫や様々な案内が受けられます。自分たちの住宅を紹介するマテリアルも審査の一つです。図面であったり、冊子であったり、このチームのようにサイコロ状に組み立てられるグッズを配っていたり、様々でした。

 

そのほかにも、こんなチームもありました。こちらはルーマニアのチーム。外壁がさきほどのTeam BaityKoolと同じように穴の空いた外皮で覆われています。デザインはルーマニアの伝統をモチーフにしているとのこと。

 

室内は広々しています。やはりここも外皮で守られているため室内の温度が上がらないように工夫されています。素材の使い方も上手です。今すぐにでも住めそうでした。

 

優勝したのはバージニア工科大学のチーム。

外観からして人工的なフォルムです。

 

バージニア工科大学のチームはまさに未来の住宅というコンセプトで、IoTやARなどを使った”宇宙船”のような住宅でした。建物のいろいろな部材や建物そのものがプラグイン・アウトできるようになっています。それぞれの部材にタグが付いていて、管理されています。

 

見学したすべての住宅の紹介は出来ませんが、SDME2018ではこれまでのソーラー・デカスロンと同様に、未来のエネルギー自立住宅がたくさん建てられていて、とても良い刺激になりました。

次回のソーラー・デカスロン中東大会は2020年に開かれます。日本から出場するチームはあるのでしょうか。